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食べログのレビューで料理の感想を書かない奴

文章

 今日も丸香へ行った。夕方の五時半というのに店の外まで行列ができている。店内で待っている客と合わせて行列は八人は数える。こんな中途半端な時間にうどんを食べて、この人たちはこれが夕飯なのだろうか、それとも間食なのか、私も人のことは言えない。夕方の五時半に夕飯を食べることができたらどれほど幸せだろうか。まだ外は明るい。夕飯を食べて、空が明るいと、まだ一日が半分くらい残っているような気がして得した気分になる。私はいつも五時半が定時で五時半まで働いているから五時半に夕飯を食べることはない。
 いつものように店に向かって左側に並んでいると、店員がやってきて、
「お待ちの方でしょうか」
 と聞かれ、はいと答えると、
「こちら側へお並びください」
 と右側に誘導されて、メニューを渡された。
 左隣の店を見ると、ビアーカフェと書かれた飲み屋で営業を開始していた。昼時はまだ営業していないから、左側の飲み屋の前から長い時はその先の小学校の門の前まで並ぶ行列は、この時間は右側に並ぶように指導されるということを私は初めて知った。
 少しして店員が注文を取りにきて、ひやかけ大と上天を頼んだとき、まだ行列は進んでおらず、どうもこの時間は回転が悪い気がする、外で待つ手が寒い。寒いと思ったら中に案内されて、長いテーブルの一番奥に座った。座ってからうどんが出るまでは早い。一番奥の、私が座った席のすぐ横にある壁を挟んで隣のビルでは何か工事をしていて、壁に電動ドライバーを当てるような音が断続的に響いてくる。
 向かいに座った中年の女の二人組がクラシックラガーの中瓶を傾けて、コップに注いだビールを飲んでいる。隣の男がかけを食べ終わって席を立ってテーブルの上が片付けられたところへ若い女が座る。女は釜玉カルピスバターを頼む。席についてから頼む。店の外で渡されるラミネートされたメニューには釜玉カルピスバターは書いていない。テーブルの上に置かれた逆T字型の置き型メニューにだけ、釜玉カルピスバター釜玉ジロー、釜玉肉なんとかの三種類が書いてある。店の入り口を見るともう行列は出来ていない。私が着席するといつも行列がなくなっているのはなんでなのか。最近「腑に落ちる」と同じような使い方で「ハラオチ」という人がいて私はそれこそ腑に落ちない。あとそいつは肥っていた。さっきから店内に延々と流れているギターソロはまたジミ・ヘンドリクスだろうか、いやジミー・ペイジかもしれない。向かいの女の前に釜玉が置かれる、それを左の女が食べる。私の前にひやかけ大と上天が運ばれてくる。前の女にかけがくる、かけは左の女の前に置かれる、釜玉は右の女が食べている。ひやかけに擦ったごまと七味をかける。工事の音が聞こえる。
 扉を開けた店員が、
「おあと四名様と六名様です」
 と言ったら別の店員が、
「多いな」
 と言った。私は「多いな」と思った。
 うどんを食べた。
 店を出ると行列はまた再開していて、店の前には四人組の社会人風のグループと、大学生風の六人くらいのグループが並んでいた。私はスターバックスの交差点まで戻って、靖国通りを渡って、細い路地を歩いて、また東京堂書店に行って三階でしばらく本を眺めてから結局本を取らずに一階に降りてきて「群像」の四月号を買って出てきたら、外はまだ暗くなっていないが太陽は沈んでいて空は明るくはなかった。