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「間違えたら謝ろう」はわかっているけど簡単ではない

 中学のときの国語の教師の話をします。わりと入学したばかりの頃、たしか6月くらいだったと思うんだけど日帰りの修学旅行のような行事で東京に行くことがあった。新幹線で。それで駅前の広場に朝の7時に集合することになっていて、俺が着いたのがギリギリで既に学年のほとんど全員が集まっていた。もちろんその時は学年全員の顔なんて知らないからたぶん集まっていたんだろうという記憶でしかないんだけど。それで俺が着いたのがギリギリだったのね、そしたらそれを見つけた国語の教師が「お前!遅刻だぞ!何考えてるんだ!」っていきなり怒鳴りつけるもんだから「えっ?!」って時計を見たらまだ7時ではない。確かに7時ギリギリではあるけど7時ではない。だから「まだ7時じゃないですよ」って言っても「ふざけるな!遅刻だ遅刻!」てもう話にならないというか一度拳を振り上げたもんだから学年全員が見てる手前もうどうしようもない。なんとかしてこの遅刻した生徒が悪いことにしないと自分が収まらないと思ったのかもう認めるものも認められない。いや確かにギリギリはギリギリだけどさ、6時57分とかだったのよ。遅刻じゃないじゃん。俺がたまたま修学旅行だからってんでしてた腕時計がカシオのGショックでもちろん学校には付けていかないけど修学旅行だからしていたカシオのGショックってカシオってつけなくてもGショックはカシオだろ、それと駅前広場の時計どちらも6時57分だったからこれはもう日本中6時57分でしょ。その瞬間「あっ、こいつミスったな」って思うよね、中1だから。こいつミスったなって思ったときの中1はバカだよ。だから中1に勝とうと思ったらわざとちょっとしたミスをしてみたらいいと思うんだけど、でもってこっちも中1だから、いまなら適当にすいませんとかなんとか言ってその場を収めるのも吝かではないけども、もちろんその場合でも「まだ集合時間前ではありますがみんなを待たせてしまったかもしれません」とかは言うかもしれないけど当時は中1だから、自分に非がないと思ったら引かないじゃないですか。あっこれは勝てると思ったら降りないじゃないですかバカだから。そうしたらもう次の台詞は「いま何時ですか?」しかないよね。すると国語の教師も「6時57分です」とは言えないよねさすがに。言ったら確定しちゃうから。負けが。そこで勝ち負けが出てくるのが本当にバカだと思うんだけど。そこは教師だから、やっぱり子供の扱いに慣れてるというか、ちゃんと勝ち負けを確定させない。悪く言えば負けを認めない。苦し紛れに出てきたのが「5分前行動なら遅刻だ!」でした。

 仕事相手と13時に自分の会社で会う約束してるとします。そこで12時50分とか55分に来るやつなんなの?もっと酷いやつだと12時40分に来るやつもいるけどなんなの?こっちはまだ昼飯食って席に戻ってからネットしたり新聞読んだり小説読んだり昼寝したり歯磨いたりボーっとしたりしてるんだよ。あるいはなにもしてないんだよ。なにもしてないをしてるんだよ。早けりゃいいってもんじゃないだろ。遅刻したくないのはわかる。だからって早くくるなよ。早く着いたならその辺うろうろしてろ。まだ来るな。早く来てますアピールすんじゃねえ。時間潰せ。時間潰して13時00分30秒に来い。俺はお前と13時に約束したんであって12時55分に約束したわけじゃない。5分前はまだお前の時間じゃない。13時からがお前の時間だ。

 個人的に5分前行動をポリシーにするのは構わないんですけどそれは自分ルールであって他人には他人のルールがある。他人は5分前行動をしているとは限らないわけでそこには集合時間の7時しかないにもかかわらず遅刻だ!と言ってしまったのはまあミスなわけで。だから今回は完全に国語教師のミスなんですけど、じゃあ例えば学校で全校生徒に普段から5分前行動を心がけましょうって言われてたとする。6月の学級目標は「5分前行動をする」だったとします。だとしたらどうでしょう。クラスとしてはやっぱり5分前行動がよしとされていることになります。例え修学旅行の前日に、集合時間は7時です。と言われていたとしても、私が学級目標にコミットするかしないかは別としても、そのクラスの一員である以上、5分前行動をすることが5分前行動をしないよりもいいbehaviorであると認められた社会がそこにある。事実私を除いた多くの生徒達は5分前行動をしてそこに集合しているのです。さあ、6時57分に登場した少年は悪いのでしょうか悪くないのでしょうか。色々な考え方はあるにせよ、5分前行動してほしかったという教師の気持ちもわからないでもない(実際にはそんな学級目標など無かったけどもしもの話として)。でもそこで始めから「遅刻だ!ふざけるな!」と言う必要はあったでしょうか。「ギリギリですよ、もう少しで遅刻になったかもしれないですよ」というやり方もあったんじゃねえかと思うのです。少年は5分前行動を破るつもりは別になかったのです。学級目標を知らなかったのかもしれません。知らなかったことはもしかしたら褒められるべきことではないかもしれません。しかし、いきなり殴りかかられるほどのことでしょうか。殴らなければ「そうですね、気をつけます」で済んだかもしれない。「えっ、いま何時ですか?」「・・・・・・間に合ったからいいものの5分前行動なら遅刻だ!」「5分前行動じゃないし遅刻じゃねえよ」とはならなかっただろう。だからいきなり強く殴りかかるのはやめようという話なのだけど、人間だから間違えて殴りかかることもあるだろう。いや殴りかかるのはあってはいけないけど、間違えて「お前は遅刻だ!」と弾劾断罪糾弾河岸段丘することはあり得る、私も貴方もあり得るのだから、間違えたときは素直に謝ろう。「えっ、いま何時ですか?」「ん?ああまだ57分だったな。すまない」と謝ろう。そういう大人に私はなりたい。そして知らずに、あるいは不注意で人を怒らせてしまったら、素直に謝れる人になりたい。と思ったのでした。

 けれどこのように思っている私であっても、頭ごなしに殴られたら、咄嗟に身構えてしまうし、自分に理があると思えば素直に謝れる自信が無い。相手の言い分を良く聞けば相手に理があるようなことであっても、咄嗟に受け入れることは難しい。それは頭ごなしに殴ってくるやつを条件反射的に受け入れていたらそいつは増長し毎日殴ってくるようになることを経験的にわかっているから。人間は自分の身を守るようにできている生き物だから、いきなり殴りかかられれば反射的に防御はするし反撃もする。だからヒトを簡単に殴ってはいけないのだけれど、ヒトは謝ることもできる、ということを思い出したい。