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「アイヌ民族尊重の呼びかけに関する嘆願書」の内容について

文章

※下記くたびれはてこさんのエントリーは現在修正されています。
修正前のエントリー(魚拓)はこちら
【魚拓】株式会社SNKプレイモア ならびにナコルル声優生駒治美さんへ アイヌ民族尊重の呼びかけに関する嘆願書 - はてこはときどき外に出る
以上追記(2016.9.17)


kutabirehateko.hateblo.jp


 私は、くたびれはてこ (id:kutabirehateko)さんが、ゲーム「THE KING OF FIGHTERS XIV」を開発したメーカーに対し、ゲームのファンに対するマナーの喚起をするよう要求する嘆願書を送ることについて、(キャラクターを演じた声優に嘆願書を送ることは筋違いだと思いますが)反対ではありません。

 一般に、あるゲームについてマナーの悪い一部のユーザーに対して注意を呼び掛けることは、開発元あるいは運営側の義務とまでは言えなくても責任はあると思います。

 また、嘆願書自体は誰でも送ることができるので、(相手の業務を妨害しない限りは)送りたければどんどん送ればいいと思います。もっとも嘆願が叶うかどうかは別の話で、望み通りのアクションがなかったからといって相手を責める理由にはなりませんが。


 ところで上記エントリに書かれた「嘆願書」の内容に気になる箇所がありました。


 引用します。(引用している箇所をさらに引用しているのでわかりにくいですが、もとのエントリでは条例の条文が引用されています)

これは「大阪市ヘイトスピーチへの対処に関する条例」の以下に該当する明白なヘイトスピーチです。

(筆者注:ここから引用)
 (1) 
  ア 人種若しくは民族に係る特定の属性を有する個人又は当該個人により構成される集団(以下「特定人等」という。)を社会から排除すること
  ウ 特定人等に対する憎悪若しくは差別の意識又は暴力をあおること
 (2) 表現の内容又は表現活動の態様が次のいずれかに該当すること
  ア 特定人等を相当程度侮蔑し又は誹謗中傷するものであること
  イ 特定人等(当該特定人等が集団であるときは、当該集団に属する個人の相当数)に脅威を感じさせるものであること
 (3) 不特定多数の者が表現の内容を知り得る状態に置くような場所又は方法で行われるものであること

大阪市市民の方へ 「大阪市ヘイトスピーチへの対処に関する条例」について
(筆者注:ここまで引用)

ご承知のように、この条例は全国で適用されるものではありません。しかしこのような条例が施行されるに至った異人種、異民族、その他マイノリティへの苛烈な攻撃で、疲弊し、消耗している点でアイヌは例外とは申せません。

 さて、くたびれはてこさんが、上記のように引用した「大阪市ヘイトスピーチへの対処に関する条例」ですが、実際の条文は次のようになっています。

(定義)
第2条 この条例において「ヘイトスピーチ」とは、次に掲げる要件のいずれにも該当する表現活動をいう。
(1) 次のいずれかを目的として行われるものであること(ウについては、当該目的が明らかに認められるものであること)

  ア 人種若しくは民族に係る特定の属性を有する個人又は当該個人により構成される集団(以下「特定人等」という。)を社会から排除すること
  イ 特定人等の権利又は自由を制限すること
  ウ 特定人等に対する憎悪若しくは差別の意識又は暴力をあおること
 (2) 表現の内容又は表現活動の態様が次のいずれかに該当すること
  ア 特定人等を相当程度侮蔑し又は誹謗中傷するものであること
  イ 特定人等(当該特定人等が集団であるときは、当該集団に属する個人の相当数)に脅威を感じさせるものであること
 (3) 不特定多数の者が表現の内容を知り得る状態に置くような場所又は方法で行われるものであること


※赤字は筆者
大阪市市民の方へ 「大阪市ヘイトスピーチへの対処に関する条例」について

 赤字にしたのはくたびれはてこさんが「嘆願書」の中に引用するにあたり削除した部分です。
 ですが削除した部分こそが重要で、この大阪市の条例では「ヘイトスピーチ」を定義する上で第2条第1項(1)ア~ウのいずれかを目的とするものとしています。つまりこれらいずれかの目的がなければ「ヘイトスピーチ」にはあたらないとしています。

 今回の騒動で問題となった

アイヌ殺す」

 という発言は、実在するアイヌ民族の人々に向けられたものではなく、ゲームのキャラクターであるナコルル(及びそのキャラクターを使用するプレーヤー、または鷹)に向けられたものであったことは明らかであり、アイヌの人々を"社会から排除すること"や、彼らへの"憎悪若しくは差別の意識又は暴力をあおること"が目的であったとは言えません。
 もちろんあの発言は非常に強い暴力的なもので、現実に生きる誰かを傷つける可能性のある、想像力を欠いたものであることは言うまでもなく、許されないものだということに異論はありません。
 ですがあれを「ヘイトスピーチ」だとするのは無理があります。さらに「ヘイトスピーチ」と認定した上で反ヘイトスピーチ、反差別の文脈で糾弾するのはやや行き過ぎの感じがします。(当初の発言のみを問題にしており、その後の対応や周辺のプレイヤーたちの発言までは仔細に追えていないので、仮にその中で差別的な言動があったとすればそれは別です)


 また、そもそもこの「大阪市ヘイトスピーチへの対処に関する条例」はヘイトスピーチと思われる事案が発生した時に大阪市がどのように対処すべきかを定めたものであって、一般的にヘイトスピーチを定義するものではないんですよね。
 しかもゲームの開発元である株式会社SNKプレイモアの所在地は大阪府吹田市江坂町一丁目16番17号ですからね。(なぜか上記のエントリではこの会社の住所だけ書かれていませんが)*1

 まあもちろんくたびれはてこさんはそんなことは先刻ご承知のことと思います。というのも日本にはヘイトスピーチを明確に定義した法律がないですし、何がヘイトスピーチにあたるのかはっきりとした定義が無い状態ですので、わかりやすい例として大阪市の条例を持ち出したんだろうということは想像がつきます。

 ですがそのような状況で誰かの発言をヘイトスピーチと認定し、また認定した上で叩くのであれば、相当の慎重さが求められるべきと私は思います。


kutabirehateko.hateblo.jp

 くたびれはてこさんは、こちらの記事でも当該発言をヘイトスピーチと認定していますが、記事の中で

アイヌ殺す」はヘイトスピーチ

 という見出しの下、それぞれの立場のツイートを引用し中立的な立場をとっているものの、結局あの発言がヘイトスピーチであることを論証していません。まさか「傷ついた人がいるのだから問答無用で差別だ」というわけではないのでしょう。


 まとめると、

  • 例の発言は暴力的で、Twitterのような人目につくところで発言することは不適切
  • だが、本人に差別意識や差別する目的があったとまでは言えず、大阪市の条例が定義する「ヘイトスピーチ」にはあたらない
  • 嘆願書は好きにすれば

 以上です。

追記しました。(2016.9.17)

shohei.hatenadiary.jp

*1:追記:本文中に"大阪府吹田市"との記述があるとのご指摘を頂きました。訂正します。