牡蠣が食えたら

#牡蠣食えば のサブブログにしました。

ナコルル問題に関する嘆願書のエントリーが修正されたようです。(前回の続き)

 前回の記事を公開してから程なく、記事の中で指摘した部分について元のエントリが修正されています。まだ嘆願書のご提出はされていなかったのでしょうか、ご修正が間に合いなによりです。あの内容のまま受け取っていたら先方も困惑していたことでしょうから。

 ところで元のエントリの追記という形でこちらのエントリが公開されています。
kutabirehateko.hateblo.jp


 なお、私及び私の投稿した前回のエントリに対しては、いまのところくたびれはてこさんから特にリアクションもなく、また上記のエントリでも直接の言及はないため、くたびれはてこさんが私のエントリを読んで頂けたのかはわかりません。
 また、「まとめて返信」というタイトルからもわかるように、私のエントリに向けて書かれたものではない表現も多数見受けられます。従って、これを前回の私のエントリに対する反論として扱うことはできないのですが、エントリの中に私が指摘した内容について一部書かれていることや、指摘した箇所が元のエントリでは修正されたという事実を踏まえ、ここから先はくたびれはてこさんが前回のエントリをお読みいただけたものと勝手に推定し、一人相撲で部分的補足をさせて頂きます。認識に誤りがあればご指摘ください。

ゲーム開発会社の住所について

SNKプレイモアの住所がない

ただのコピペ忘れ。なので本文中には吹田市と出てくる。

 これについては私の見落としでした。確かに本文中に"大阪府吹田市"との記述があります。失礼しました。

大阪市条例の引用方法について

大阪市ヘイトスピーチ対処に関する条例」が一部削除されている

削除ではなく一部引用。ただでさえ長いエントリーなので該当箇所だけ掲載。

 元のエントリでは、条例に該当するかどうか判断する上で最も重要な条文(ここでは第2条第1項(1)の「次のいずれかを目的として行われるものであること(ウについては、当該目的が明らかに認められるものであること)」)を、引用する際に書いていません。逆にここを記載してしまうと該当していないことが明らかであるため「該当箇所だけ掲載」とは言えません。
 このようにある部分を書かないことによって意味の変容を惹起する引用の仕方をもって私は「削除した」と判断しました。別に「一部引用した」でも構いませんが意味に大きな違いはないと言っていいでしょう。

 まあこれについてはしっかり引用する形で修正されているのでいいのですが、前述の通り条文が正しく引用されたことで、今回のケースがこの大阪市条例の規定に該当しないことがはっきりとわかるようになってしまいました。これでは先方も困ってしまいます。

 もう一度「大阪市ヘイトスピーチへの対処に関する条例」の条文を見てみましょう。

(定義)
第2条 この条例において「ヘイトスピーチ」とは、次に掲げる要件のいずれにも該当する表現活動をいう。
 (1) 次のいずれかを目的として行われるものであること(ウについては、当該目的が明らかに認められるものであること)
  ア 人種若しくは民族に係る特定の属性を有する個人又は当該個人により構成される集団(以下「特定人等」という。)を社会から排除すること
  イ 特定人等の権利又は自由を制限すること
  ウ 特定人等に対する憎悪若しくは差別の意識又は暴力をあおること
 (2) 表現の内容又は表現活動の態様が次のいずれかに該当すること
  ア 特定人等を相当程度侮蔑し又は誹謗中傷するものであること
  イ 特定人等(当該特定人等が集団であるときは、当該集団に属する個人の相当数)に脅威を感じさせるものであること
 (3) 不特定多数の者が表現の内容を知り得る状態に置くような場所又は方法で行われるものであること


大阪市市民の方へ 「大阪市ヘイトスピーチへの対処に関する条例」について

 上記の通り、条例ではヘイトスピーチの要件として、次のいずれかを目的として行われるものとしています。

  • ア 人種若しくは民族に係る特定の属性を有する個人又は当該個人により構成される集団(以下「特定人等」という。)を社会から排除すること
  • イ 特定人等の権利又は自由を制限すること
  • ウ 特定人等に対する憎悪若しくは差別の意識又は暴力をあおること

 前回の記事でも指摘した通り、今回のケースでは上記ア~ウのいずれもその目的があったとは認められず、従って条例の定める「ヘイトスピーチ」にはあたらないと解することが妥当です。

 もちろん、

大阪市の条例に該当するからヘイトスピーチだ、該当しなければそうではないということではなく、定義を理解してもらうための参考例。

 はい。条例に該当しなければヘイトスピーチではないということではない、というのは当然です。

 ですが、くたびれはてこさんは、"「大阪市ヘイトスピーチへの対処に関する条例」の以下に該当する明白なヘイトスピーチ"と言うのですからそれを説明するべきでしょう。条文を貼り付けただけでは説明したことにはなりません。少なくとも今回のケースに第2条第1項(1)ア〜ウのいずれかの目的があったとする反論があると思います。
 でなければ該当しない条例をわざわざ参考例として持ってくるのは不自然です。

 繰り返しますが、大阪市の条例に該当しないからといってヘイトスピーチではないということにはなりません。ここは大阪市条例ではなく、よりふさわしい論拠を持ってくるのが適切だと私は思います。

ヘイトスピーチの法規制について

法を動かさなきゃならなくなったんだということが、今回の件でよくわかった。

 私もヘイトスピーチの法規制には賛成します。差別は絶対に許してはいけません。
 一方でヘイトスピーチ規制法の制定にあたっては、くたびれはてこさんが紹介されている『ヘイト・スピーチとは何か』(師岡康子著.2013.岩波書店)でも取り上げられている通り、その濫用の防止も考慮しなければなりません。

 濫用防止のための工夫を
 ラバト行動計画(2章1節参照)も、濫用の問題を指摘しつつ、最も憂慮しているのは、本来の意味でのヘイト・スピーチが訴追も処罰もされずにいることである(ラバト行動計画II-11)。そこで濫用を防ぎつつ適正な規制がなされる様、国内法で「差別」などの用語の明確な定義を行い、規制要件が過度に狭すぎたり、曖昧であったりしないよう求め、また、法律の内容のみならず、司法がその法律を適用する際、濫用を防ぎ、かつ適切な規制がなされるよう、具体的な注意事項を挙げて勧告している。
 人種差別撤廃委員会勧告三五も刑事制裁の正当性、公平性と必要性の原則に加えて、スピーチの内容と形態、発言者の地位、スピーチの目的、範囲、方法など様々な要素を検討して、規制する対象を正確に定めるよう勧告している。各国も濫用を防ぐ様々な取り組みを重ねており、その経験から学ぶべきであろう。


(168頁7行目-169頁2行目)ヘイト・スピーチとは何か (岩波新書)

 日本では、「本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消に向けた取組の推進に関する法律」(いわゆるヘイトスピーチ規制法)が本年6月3日に施行されました。ここに条文を一部抜粋します。

(定義)
第二条 この法律において「本邦外出身者に対する不当な差別的言動」とは、専ら本邦の域外にある国若しくは地域の出身である者又はその子孫であって適法に居住するもの(以下この条において「本邦外出身者」という。)に対する差別的意識を助長し又は誘発する目的で公然とその生命、身体、自由、名誉若しくは財産に危害を加える旨を告知し又は本邦外出身者を著しく侮蔑するなど、本邦の域外にある国又は地域の出身であることを理由として、本邦外出身者を地域社会から排除することを煽動する不当な差別的言動をいう。

 この法律では「本邦外出身者に対する不当な差別的言動」*1をこのように定義しており、事実上日本国内の出身者、つまりアイヌなど少数民族を対象から外していると読めるなど、まだまだ課題が残されています。この点においても議論が進んでいくことでしょう。


 一人相撲としては以上です。


ヘイト・スピーチとは何か (岩波新書)

ヘイト・スピーチとは何か (岩波新書)

*1:普通にヘイトスピーチとすればいいのに、なんでわざわざわかりにくい用語を生み出すのか。法務省はホームページやパンフレットではヘイトスピーチと使っているクセに