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Gショック

文章

エレベーターホールに掛けられた時計をなんとなしに見ると、秒針が44秒のあたりでピクピクと何度も44秒をカウントしていた。時計は6時12分を指していて、iPhoneで時間を確かめると18:12と表示されていた。これはもしかすると、時計の電池が切れる瞬間を目撃したのかもしれない。

中学のとき父親からGショックを貰った。貰ったというより半ば強引に奪い取った。Gショックは父親がゴルフコンペの景品で持って帰ってきたものだ。
Gショックを早速腕にはめてポチポチ遊んでいるとストップウォッチという機能を発見した。その機能を使って私は、自分が一体何時何分に寝たのか、計測してやろうと考えた。それまで私はいつ自分が寝たのかということがずっと不思議だった。布団に入って目を閉じながら、今日のことや明日のこと、その他諸々を考えながらしばらくは起きていたはずなのに、気づくと朝である。それがどのくらいの時間なのか、5分なのか50分なのか、どうして寝る瞬間を記憶していることができないのか不思議だった。だからGショックをつけて布団に入ったらストップウォッチを開始し、寝る瞬間にストップボタンを押そうと企んだ。

結局その実験は成功した試しがなかった。まず問題なのは時計をしたまま寝るのが非常に鬱陶しい。特にゴムバンドなのでベタつくし、締め付けられる感じが良くない。スウェットだって、勿論当時はトレーナーと呼んでいたが、袖口のリブの締め付けが苦手でパジャマに使用したことはない。ついでにコンビニに着ていったこともない。それから意識して寝よう寝ようと思っていると、なかなか寝ることができない。これは誰もが経験していると思う。ましてや寝たらボタンを押そう押そうと思っていればなおさらである。

疑問は結局解消されなかったが、ある時テレビで金縛りを検証するという番組が放送されており、その検証の方法とはビデオカメラが設置された部屋で被験者に寝てもらい、寝てる間に金縛りにあったら、あとでその時の録画を見せて「ほら、落ち武者なんて乗っていませんよ」と教えてあげる。もしくは実際に落ち武者を映像に収めようとしていたのかもしれない。
その番組を観て「これなら自分がいつ寝たのかわかるんじゃないか?」と思った。けれど検証映像を観ていると、横になっている人が寝ているのか起きているのか外から見てもはっきりとは分からないんじゃないかということに気づいた。寝るという行為は極めて個人的で内向きである。明らかに授業中に寝ている学生は別として、寝ているかどうか見分けがつかないことも多い。本人でさえ見分けられない曖昧な眠りだってあるだろう。覚醒から曖昧な睡眠を経て完全な睡眠状態に移行するなら、曖昧な睡眠の最中のどこかに区切りを設けて、寝た瞬間を決めること自体がナンセンスかもしれない。

それにしても録画されている状態でよくも寝られるものだ。録画なんてされていたらずっとカメラのことが気になって、いつもより寝付きが悪くなるだろうし、寝苦しくなるに決まってるから、テレビ番組の検証自体が金縛りの原因なんじゃないか。


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