牡蠣が食えたら

#牡蠣食えば のサブブログにしました。

「遠い触覚」を読んでいる

少し前に「意味をあたえる」のブログでお馴染みの弓岡さんことfktackさんが保坂和志の「遠い触覚」の中で「マルホランド・ドライブ」に出てくるカウボーイはフィクションの外から来たと書いていると書いていて、私は「マルホランド・ドライブ」は好きで何回か観ているがカウボーイの話は初耳だったので「マルホランド・ドライブ」のことがそんなにたくさん書いてあるなら「遠い触覚」を読んでみたいとコメントした。(「」ばかりになってしまった。)そうしたらfktackさんはコメントを返してくれて、
「『遠い触覚』は目次を見る限りだいたい『インランド・エンパイア』の話みたいです。」
と釘をさされた。私は仕方なく「探して読んでみます」と引き下がった。「インランド・エンパイア」は映画館で一度観たきりでほとんど覚えていない。「マルホランド・ドライブ」もカウボーイがフィクションの外から来たことも知らなかったくらいなのでストーリーをちゃんと理解していたわけではないが、というかカウボーイが何者かなどと考えたことがなくて、私が「マルホランド・ドライブ」を観るときは大抵特に予定もない休日の午後にビールを飲みながらダラダラとつけっぱなしにしている。そうするとウトウトしてきてそのまま寝てしまうが、やがて起きてもまだ映画をやってる。あの映画は長い。長いので最初から最後まで全部観ると疲れてしまうが、「マルホランド・ドライブ」はひとつひとつのシーンがそのシーンだけで完結していてシーン同士はゆるく結合しているため、どのシーンを取り出してもそれ単体でそれなりに楽しめる。なので、どこから始めてもどこで終えてもいい。シーン単体で楽しめるところはゴダールの映画にも似ている。ウトウトしながら観るのもありで、ストーリーも誰かの妄想だったり夢だったりということなのでそのあたりも相性がいい。そのうち夢の中でも映画が流れ出して、それは観たことのないシーンなのだが夢なのですんなり受け入れている。あるいは春の暖かい日差しの入る窓際でフローリングの上に仰向けに寝転がって観ていると、高確率で金縛りにあって、金縛りの中で映画を観ている。金縛りとは要はリアルな夢のことなので、見ている光景もすべて夢なのだが、周りの情報はかなり脳に入っているようで、金縛りの最中に近くでテレビが付いているとその音声が聞こえている。しかし目を開けているわけではないので実際の映像が見えているわけではない。見えていると思っている映像は夢が作り出したものだ。ただ「マルホランド・ドライブ」の場合は私は何度も観ているので音の情報だけでかなりのところまで映像を再現できているように思う。つまり寝ていても映画を観ることができている。金縛りにあったことがない人は映像を再現できるなんて馬鹿げてると思うかもしれないが、金縛りのリアルさ、現実感を一度でも体験すればそうは思わないはずだ。金縛りに慣れてくると金縛りの現実感を保ったまま体を動かせるようになる。これを明晰夢や離脱と言ったりするが、このときの感覚、例えば手で物を触った時の触覚や大地を踏みしめる足の感覚、周囲の風景や音や匂いなどはまさに現実そのもので、実際には横になって寝ている人間の脳内で作り出されたものであるということは、つまり起きている間にそれらの情報を知らず知らずのうちにすべて記憶し、夢の中で再現するだけの力を脳が持っているということだ。それを考えれば、映画のワンシーンを再現することくらいいとも容易いことなのだ。その能力はもちろん誰にでも備わっているものだと思うが、起きているときに発揮できる人がいればそれは天才と呼ばれる人だろう。寝ている時に発揮されても役には立たないが、それなりに楽しむことはできる。ただし金縛りへの慣れは必要だが。
対して「インランド・エンパイア」は映画館で一度観たきりだった。たしか高田馬場早稲田松竹だったが誰と行ったかまでは忘れた。大学の友人の女の子だったかもしれないが180分もある映画だからデートではなかったと思う。早稲田松竹は小さい映画館でシアターは一つしかなく、一つのシアターで2本の映画を交互に上映していて、いまでは珍しく入れ替え制ではない。その気になれば朝から晩まで同じ料金で居続けることもできるが、その場合同じ映画を3回は観ることになる。上映される映画は一週間毎に変更されて、いわゆるミニシアター系とか、東欧の映画とか、あとは記録映画ようなものをよく上映していた。もしかしたら「インランド・エンパイア」は長いから、その週は1本立てだったかもしれないが覚えていない。とにかく私があの映画で覚えていることといえば、主演女優の顔があまり好みではなくて、なのにその顔が只管ドアップで映されていたことくらいだった。ドアップというのはショットサイズでいえばクロースショットというのだろうが、普通は頭のてっぺんか顎のどちらかくらいは映っているものだが、あの映画の場合は下手したら眉から口の下くらいまでしか映らないほどに近いショットで、それがスクリーン全面に何度も映し出されるものだからウンザリした。早稲田松竹だったからよかったものの、あれが新宿ミラノ座だったら耐えられなかったように思う。ミラノ座はエヴァンゲリオン新劇場版序の初日に観に行ったがあれは映画館というよりコンサートホールに近かった。映画が終わったら観客がみんな拍手していた。
それで昨日本屋に行ったら「遠い触覚」を見つけて、値段を見たら思いのほか安かったので買ってきた。実は上記のやりとりのあと「探して読んでみます」と言った手前、ネットで探してみたらホームページで読めるらしいことがわかり第2回まではネットで読んでいたのだが、製本されて売っているのを見るとなんとなく本で読みたい気がして、といってもこれが4,500円とかだったら考えたかもしれないが、そんなに高くないと思ったので買った。手元に本があるので第3回以降もネットで読めるのかは知らない。そうして読み始めてみたらやっぱり目次を見る限り「インランド・エンパイア」のことばかり書いてあるようだったので徒歩1分のTSUTAYAに行って借りてきた「インランド・エンパイア」を観ることにした。