「筋が悪い」という言葉は誤用かネットスラングか
インターネット上で見かけて最近気になった言葉があった。
筋が悪いで検索すると「筋が通らない」の意味で使用されてる事例がこんなにもあるんだけど、俺が知らないだけでネットスラングか何かなのかな。
— 昌平橋 (@shohei_bashi) 2015, 8月 3
"筋の良い感想、筋の悪い感想" 聞きなれない言葉 / “ステキな読書感想文を、お手軽に書きあげるためのフォーマットと本読みの方法。 - ブログ名(未定)” http://t.co/Po0Dk7UjUG
— 昌平橋 (@shohei_bashi) 2015, 8月 10
「筋が悪い」と聞くと「あいつはゴルフの筋が悪い」というような「素質がない」という意味をイメージする。この意味ではむしろ反対の「筋が良い(素質がある)」という意味で使うことの方が多いかもしれない。
またもうひとつの意味として「そのスジの人」というような「柄が悪い、属性が悪い」という意味をイメージする。
辞書を引いてみると、
筋が悪い
- 芸事などの素質がよくない。「ー・くてなかなか上達しない」
- 性質が悪い。「何(ど)うも質(すじ)の悪い腫物(できもの)だねえ」〈円朝・真景塁ヶ淵〉
出典:デジタル大辞泉
という意味が載っている。
ところがネット上では次のような意味で使われているケースが目立つようだ。*1
「筋が通らない」の単純な誤用?
不景気が悪いとかデフレが悪いとか言うけと、それは金を使わなかっか結果であって原因じゃないし、デフレだから人を安く雇うのではなくて、人を安く雇うからデフレになる。外国人研修生使ってる会社に価格決定権があるかないかといえば、無いだろうから彼らに高く雇えと言うのは筋が悪いとしても。
— 愛国者 (@pannacottaso) 2015, 8月 2
なぜかXIIIやXVの路線ばかり注目して、そちらばかり叩くのは筋が悪いと自分はずっと思っているのだがw
— ゆう (@auqser) 2015, 8月 2
@yoursmins @sgtm4 むしろ「原爆投下を神に感謝」みたいな恥知らずなコラムを書く人間を、国籍や人種に関係なく、個人を非難するべきですよ。そういう人がアメリカ人の中にいるからといってアメリカを非難するのは筋が悪い
— 左倒憂右(小4) /第五種補給品 (@USK_Sato) 2015, 8月 8
「議論の進め方に問題がある」「論拠に乏しい」という意味での使用
反レイシズムという誰もが反論できない正義を振りかざして、ザハ案に反対する人を攻撃するのは余りに筋が悪い。
槇さんも伊東さんも、ザハ氏が外国人女性だから反対したとは到底思えないし、一般国民だって同様。国民の反対理由は明確に法外な総事業費。
森山氏の誇張と同じことになってしまうよ。
— crop (@tinycrop) 2015, 8月 3
原爆投下を合法非合法で争うのは筋が悪いよ。
— 夜勤土偶@虚神会 (@dogu_fm) 2015, 8月 9
実質的には、これ自治体の観光戦略の失敗よね。そもそも当事者たる海女さんが、その観光キャラクターを支持していないってことが広まった時点で、それは中・長期的にはイメージダウンになると思うし、この件を持って「萌え表現を蔑視するな」で戦うのは基本的には筋が悪いように思える。
— 偽トノイケダイスケ(久弥中) (@gannbattemasenn) 2015, 8月 11
どちらに分類すべきか曖昧なケースもあったが便宜的に勝手な印象で分類した。
曖昧というよりも、「筋が通らない」ということも「論拠に乏しい」の一類型である。しかし「論拠に乏しい」からといってそれが即ち「筋が通らない」とイコールになるわけではない。
なかには「性質が悪い」の意味で使用しているケースもあるように思うが、論理展開について「性質が悪い」ことを表す場合には、「質(たち)が悪い」と言った方が自然な用法な気がする。「筋」と言ったとき、それが話の内容や論理の展開を指す場合、通常は「性質」よりも「道筋」を表していると考えるのが自然な捉え方である。と、私は思う。
検索しやすいという都合から便宜上Twitterからの引用をしているが、ブログ上でもこの「筋が悪い」の使い方は多く見られる。また、年代に関係なく使用されているようで、50代以上と思われるそれなりに年齢の高い人にも使われているようだ。
話が逸れるがこのように生の言葉の使い方を調べるときTwitterは便利である。
「筋が悪い」は誤用かネットスラングか
手元の辞書で調べた限りではこの用法は見当たらないが、この「筋が悪い」はネットスラングなのか、それとも単なる誤用なのか。気になるところである。
仮にこれが昔から広く使われてきた一般的な用法であるとするならば、私は作文の筋が悪いと言わざるを得ない。
以上
追記 (2015.8.13)
Twitterやブックマークのコメントなどで、囲碁将棋の用語であるとの指摘を頂いた。
将棋において「筋」とは「大局的にみて理にかなった指し手(手順)」を筋、打ち筋と言う。筋がよいと言えば、大局的に優れているということを表す。反対に筋が悪いと言えば、理にかなっていない指し手というような意味になる。
ここから転じて、「(進め方)が理にかなっていない」「攻め方が上手くない」「悪手である」というような意味で「筋が悪い」という表現が使われているとのことである。話の筋という場合の筋とは関係ないらしい。
Twitterを振り返ると、この意味で使用されているケースもあるようだ。
また、「筋違い」の誤用との指摘も頂いた。確かにこちらの誤用のケースもあった。
現状では、
①囲碁将棋用語から派生した「筋が悪い」を使用する人
②それを見て真似たのかあるいは単なる間違いなのか「筋違い」「筋が通らない」と誤用をしている人
③辞書に載っている意味で「筋が悪い」を使用している人
の三種類があるようだ。*2
ここからは完全に私見だが、「攻め方がよくない」という意味での「筋が悪い」は囲碁将棋に限定された用語であって、議論の持っていき方が良くないという意味で使用するのはどうもなじまない。話し合いにおいて「筋」と言えばやはり「話の筋」の筋を思い浮かべるのが自然と考えるからである。
かといって、じゃあ代わりの表現があるかというといまいちピンとこないのでもどかしいところ。「悪手である」でもいいとは思うが「悪手」はどちらかというと1手1手を示すのに対して「筋」はもう少し大局的なイメージ。「戦略的にまずい」「やり方がよくない」でもいいのだが、間延びしていて聞こえがよくない。いい表現があれば知りたいところ。
それから末尾のツィート。気持ち悪さと書いたがこれは誤用であった場合気持ち悪いということでした。囲碁将棋用語としての筋が悪いは意味が理解できたので、喉の奥に小骨が引っ掛かったような気持ち悪さは解消できました。
追記以上
「筋が悪い」という言葉。「押しも押されぬ」「何気に」などと同質の気持ち悪さを感じる。
— 昌平橋 (@shohei_bashi) 2015, 8月 10
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